< より良い熱交換器(多管式)設計のために > |
この資料は、熱交換器拡管部に嫌気性シール剤を使用する場合の誤りやすい
シール剤選択基準設定と漏洩事故について当社報告書NO.RX-8305より抜粋したものです。
本資料の内容につていは当社の調査によって記載してあります。
詳細については各位におかれてご確認賜るようお願い申し上げます。
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はじめに
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嫌気性固着剤が多管式熱交の拡管部シールに使用されて、すでに長年月を経ていま
す。この用途は嫌気性固着剤の特徴である<高強度、速硬化、無溶剤>がその気密性
への高い信頼性を想定させたことと大きな係わりがあり、事実、相当の実績を挙げて
いることは御承知のとおりです。
しかし最近A社製シール剤を用いた高圧、高震動の拡管シール部から漏洩する事故
が相次いで発生しており、その原因調査を進めて行くうちに意外な結果を得ました。
これは、先述の常識的に想定される嫌気性固着剤の選択基準に錯誤があったことを
意味します。当社は嫌気性固着剤メーカーの一社として広くこの結果を公開し、一つ
の警鐘とします。よりよい熱交設計の一助に供して頂ければ幸甚です。
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1 拡管部シールに嫌気性シール剤を使用する場合、その選択基準についてどうお考えですか?
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- a)固着力の強いものを選びますか。(タイ薬品性と対応力のため?)
- b)固着時間は早いものを選びますか。(作業時間短縮のため?)
- c)粘度は高いものを選びますか。(空隙充填のため)
- d)そしてシール膜に対する設計思想として、シール膜は拡管部全面に層を形成
し、そのシール層によって気密性を保たせるのが良いとお考えですか?
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2 以上の諸点を肯定される方は下の写真をご覧下さい(何れも同一拡管圧にて拡管したものです)。
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A社 Lock-T |
弊社 エルコンRX |
全面にシール剤が廻っており、比較的厚い硬化層を形成し、
シール層そのもので気密性を保とうとしている。
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金属面接触で主体的に気密性を保ち、微細な凹凸部にシール剤が
充填されることにより、完全気密性を保つ。
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3 この二様体のシール層は、それぞれ実機にどんな影響を及ぼすでしょうか。
(下図をご参照下さい)
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- 上図はLock-Tのシール層が隣穴の再拡管によって赤矢印の個所で洩れが
発生したことを示していますが(空圧18Kg/cm2、60分保持)、
エルコンRXの場合はこの現象は皆無でした。
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以上は、実機漏洩事故としてH社で実際に発生し、その原因調査のためのモデ
ルケース試験によって判明した結果です。
この現象は運転中のスクリューコンプレッサーのIN側のような高温、高震動の
かかる場所でも発生しています。
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4 このような漏洩事故の主原因はつぎのとおりと考えられます。
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Lock-Tのように拡管部全面に厚膜を形成し、且、その膜が硬い場合は
外部応力(再拡管、高震動)によってシール層は破壊されやすい。
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- つまり嫌気性シール剤のシール効果は、1項に於いて呈示した
a)、b)、c)の予期される結果と裏腹になったわけです。即ち、
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- a’)強い固着力 → ガラス状の層 → 脆い
- b’)速硬化性 → 拡管時の厚膜形成(充分に液が廻るまえに硬化)
- c’)高粘度品 → 拡管時の金属面接触を阻害 → 厚膜形成
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- これらの性能諸元は、嫌気性シール剤の選択にあたって、価値判断の基準
を定める際、錯誤しゃすい項目です。H社は高い代償を払ってこの錯誤を是正したのです。
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5 報告書番号RX-8305について
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- より良い熱交換器設計のため、以上の調査事項を報告書番号RX-8305(型録)にまとめてあります。
詳細については当報告書をご参照下さい
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6 おわりに
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嫌気性シール剤がシェルアンドチューブ式熱交換器拡管部のシールに
応用されて既に40年余が経過しました。その意味ではこの使用法はもは
や常識的と云っても過言ではありません。
たしかに嫌気性シール剤の登場によって、漏洩事故は極度に少くなり、
信頼性の向上に大きく寄与していることは否めません。しかし一方でい
ろいろなトラブルがいまだに発生していることも事実です。
近年地球温暖化が問題になっている折、フロンガスの漏洩について関
係各社こぞって周到な配慮をされているところで、より高い気密性が叫
ばれる所似も一つにはこ、にあると思います。
考えてみますに、嫌気性シール剤もそのメーカーによって各社各様で
あり、この中から適材適所のものを撰択することは至難のワザと云えま
す。
特に拡管部への応用となると、前述しましたように非常に特殊性があ
り一般の用途の場合、高い接着力、早い硬化時間、均一な硬化層が撰
択の基準となり得ても、逆に実害の要因になるということをP社の事故
事例が証明しています。この事故事例を一つの警鐘とし、よりよい熱交
設計の一助に供して頂ければ幸甚の極みであります。
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